作家の佐江衆一氏が死去しました。享年86歳。短編小説「背」で新潮社同人雑誌賞を受賞しデビュー。自身の老老介護を題材にした「黄落(こうらく)」は、ドゥマゴ文学賞を受賞し、ベストセラーになっています。プロフィールや作品など紹介。
目次
作家佐江衆一氏が死去
作家の佐江 衆一氏(さえ・しゅういち)が10月29日午後2時24分、肺腺がんのため神奈川県藤沢市の病院で死去しました。86歳でした。
佐江 衆一氏は、 東京都出身。コピーライターを経て、60年に短編小説「背」で新潮社同人雑誌賞を受賞しデビュー。
自身の老老介護を題材にした「黄落(こうらく)」は、95年にドゥマゴ文学賞を受賞し、ベストセラーに。時代小説も手掛け、「北の海明け」で新田次郎文学賞、「江戸職人綺譚(きたん)」で中山義秀文学賞をそれぞれ受賞した。
「黄落」は主演西村晃・市原悦子・愛川欽也でテレビドラマ化、また劇団民芸、北林谷栄脚色・主演で舞台化(作者も出演)。
アヘン戦争時代の香港の海賊を描いた「クイーンズ海流」を『週刊新潮』に1年間連載するなど、歴史時代小説にも活躍。古武道杖術師範・剣道5段。
作家佐江衆一氏プロフィール
本名柿沼利招(かきぬま・としあき)。
東京府東京市浅草区栄久町(現在の東京都台東区蔵前4丁目)の柿沼質店の次男として生まれる。
2日前に4歳の兄が急性肺炎で急死していた。
母の乳が出ず乳母の乳を飲み、兄の生まれ代わりとして大事に育てられ病弱。
質店には浅草六区の芸人・歌手・踊り子・劇場の客引き・アドバルーン揚げや両国の相撲取りや下町の苦学生等の庶民の客が来て、それらの話を盗み聞きしてマセた子として育つ。
1940年 精華小学校入学。
1944年 9月宮城県白石町(現・白石市)へ学童集団疎開。
1945年 東京大空襲で家が焼失。敗戦を栃木県の母の実家で迎える。
1946年 穂積村小学校卒業。県立栃木中学校入学。翌年、茨城県古河市に転居。
1952年 栃木県立栃木高等学校卒業。東京・日本橋の丸善に入社。
1953年、中央労働学院文芸科に入学。中野重治、徳永直、佐多稲子等に学び文芸専攻科卒業。東宝ニューフェイスに応募するも書類選考で落ち、NHKラジオドラマ全国コンクール第1位に入選して全国放送。
1960年 結婚、神奈川県藤沢市に住む。
1960年 北杜夫・佐藤愛子等の同人雑誌「文藝首都」から推薦された幻想的な短編小説「背」が佐藤春夫に絶賛されて第7回新潮同人雑誌賞を受賞。
1961年 「繭」が第45回芥川賞候補。
1964年 「すばらしい空」が芥川賞候補。
1967年 「風」が芥川賞候補。
1968年 「客」が芥川賞候補。
1969年 「青年よ、大志を抱こう」で計5回芥川賞候補になるも受賞を逸す。文化学院夜間美術科卒業。
1964年、第2回コピー宣伝会議賞金・銀・銅賞を受賞して、六本木のナショナル宣伝研究所に転職し、同研究所コピー部長・企画部長。
1969年 ナショナル宣伝研究所を退社。横浜からナホトカ航路でヨーロッパ1ヵ月半の旅に出る。短編集「すばらしい空」を処女出版。
1970年 フィリピン・マレーシア・ラオスの海外協力隊員を取材し初の長編小説「太陽よ、怒りを照らせ」を新潮社新鋭書き下ろし作品として上梓。
1975年 戯曲「困った綾とり」文学座アトリエ公演。
1977年、人形と人間の共演アングラ劇「呪夢千年」(作・演出・出演)を渋谷ジァン・ジァン等で公演。その後ボヤを出すと共演の稲川淳二が「人形の呪い」だとテレビ等で話す。
1979年 第1回インド旅行。
1980年 足尾銅山の大河小説「亡国」を野間宏・小田実らの「使者」と井上光晴の「辺境」に長期連載。「我が屍は野に捨てよ」を第2回文学座アトリエ公演。
1981年 第2回インド・ネパール旅行。
1982年 神奈川県国連協会の代表の一人としてニューヨーク国連反核会議に出席、100万人世界反核マーチにも参加し日本テレビに出演。
1983年 横浜のドヤ街に住み込み中学生による横浜浮浪者襲撃殺人事件を取材し『横浜ストリートライフ』を書く。
1984年 岩波ジュニア新書「けんかの仕方教えます」は中高生のロングセラーとなる。
1986年 痴呆症の老妻をに自殺された老夫を描いた「老熟家族」がテレビドラマ化(主演・辰巳柳太郎・丘みつ子)と吉田喜重監督「人間の約束」として映画化される。
1990年、幕末の蝦夷地を舞台とした初の歴史長編小説「北の海明け」が第9回新田次郎文学賞受賞。この頃から時代小説も書き始める。
1990年 東海学園大学短期大学部客員教授に就任。以降6年間在任。
1995年、老親介護の体験を描いた「黄落」がベストセラーとなり、城山三郎選考委員の第5回ドゥマゴ文学賞受賞。パリ・サンジェルマン・デ・プレの授賞式にも参加。
この頃から毎年ボルネオ・タイ・中国・アマゾン川流域等の世界各地で熱帯雨林の植樹ボランティア活動。
1996年 時代小説「江戸職人綺譚」が第4回中山義秀文学賞受賞。
1999 アメリカ・ペンシルベニア大学をはじめカナダ、ニュージーランドの大学に語学短期留学。
2004年 蒸気客船トパーズ号で世界一周し、アフリカ・エリトリア、南米コロンビアではマングローブ植栽、スリランカの難民キャンプ、ニューヨーク、ガラパゴス諸島、中南米一のスラム街グアテマラのプエルト・ケッアル等世界18カ国の各地を訪れる。船内で脚本・監督・主演の短編自主映画「Mystery on the boat」を制作・上映。体験記「世界一周98日間の船旅」を出版。
2004年 幕末の薩摩藩士を題材とした「士魂商才 五代友厚」を出版。
2007年 茨城県古河文学館で佐江衆一展開催。
2010年 2度にわたり旧満州を取材旅行し満蒙開拓団員等の戦争体験を描いた「昭和質店の客」を刊行。
2012年 3月、回天特攻隊員の兄と東京大空襲で孤児となる弟の戦争体験の書き下ろし長編小説「兄よ、蒼き海に眠れ」を出版。
日本文藝家協会会員。神奈川文学振興会評議員。新田次郎記念会評議員。
作家佐江衆一の作品。
『すばらしい空』 1969 年
『太陽よ、怒りを照らせ』 1971年
『鼠どもへの訴状』 1972 年
『猫族の結婚』 1973年
『闇の向うへ跳ぶ者は』 1973年
『通り過ぎる橋』 1974年
『裸の騎士と眠り姫』 1974年
『終りの海』 1974年
『風』初谷行雄 1975年
『困った綾とり』 1975年
『壁の中 初期作品集』 1975年
『禿げの子供たち』1975年
『遥か戦火を離れて 学童疎開』1976年
『贋人形』 1977年
『犬が鏡をのぞくとき』1977年
『旅人の時計』 1977年
『裸足の精神』 1979年
『海からの眺め』1979年
『空は青か』 1980年
『洪水を歩む 田中正造の現在』 1980年
『ひとり旅の帽子』 1981年
『藤沢さんぽみち 藤沢三十六景』 1981年
『浅草迷宮事件』 1982年
『横浜ストリートライフ』 1983 年
『バブル(小さな泡)』1983年
『けんかの仕方教えます』 1984年
『奇妙な惑星』1984年
『老熟家族』1985年
映画化『人間の約束』1986年 監督:吉田喜重
『リンゴの唄、僕らの出発』 1986 年
『消えた子供』 1986年
『ブレンド家族』 1988年
『北の海明け』 1989年
『花下遊楽』 1990年
『捨剣 夢想権之助』 1992年
『子づれ兵法者』 1992年
『田中正造』 1993年
『風狂活法杖』 1993年
『神州魔風伝』 1994年
『黄落』新潮社 1995年
『江戸職人綺譚』1995年
『老い方の探求』 1996年
『伊勢奉行八人衆』 1996年
『江戸は廻灯籠』1997 年
『女剣』 1997年 「からたちの記」と改題、
『幸福の選択』 1997年
『午後の人生』1997年
『クイーンズ海流』1999年
『北海道人 松浦武四郎』 1999年
『不惑 人生の元気力』2000年 「50歳からが面白い」と改題、
『自鳴琴からくり人形 江戸職人綺譚』 2000年
『佐江衆一集』 2000年
『わが屍は野に捨てよ 一遍遊行』 2002年
『65歳おじさんの英会話勉強が楽しくなる本』 2003年
『商魂』 2003年 「江戸の商魂」
『士魂商才 五代友厚』 2004年
『地球一周98日間の船旅』 2005年
『剣と禅のこころ』 2006年
『長きこの夜』 2007年
『動かぬが勝(かち)』2008年
『昭和質店の客』 2010年
『兄よ、蒼き海に眠れ』 2012年
『あの頃の空』2012年
『エンディング・パラダイス』2018年
まとめ
今回は「作家佐江衆一死去、プロフィールや著書など!」というテーマでお送りいたしました。
最後までご覧いただきありがとうございました。